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人生朝露

人生朝露

泰山府君と司命。

今日はまず、『今昔物語』での安倍晴明の記録から。
安倍晴明(921-1005)。
≪師ニ代リテ太山府君ノ祭ノ都状ニ入リシ僧ノ語 第廿四
今昔□、□ト云フ人有ケリ、□□ノ僧也、止事无キ人ニテ有ツレバ、公ケ私ニ被貴テ有ケル間、身ニ重キ病ヲ受テ惱ミ煩ケルニ、日員積テ病重ク成ヌレバ、止事无キ弟子共有テ、歎キ悲テ、旁々祈禱スト云ヘドモ、更ニ其驗无シ、而ル間、安倍晴明ト云フ陰陽師有ケリ、道ニ付テハ止事无カリケル者也、然レバ公ケ私此ヲ用タリケル、而ルニ其ノ晴明ヲ呼テ、太山府君ノ祭ト云フ事ヲ令、此ノ病ヲ助テ、命ヲ存ムト爲ルニ、晴明來テ云フ、此病ヲ占フニ、極テ重クシテ、譬ヒ太山府君ニ祈禱スト云ヘドモ、難叶カリナム、但シ此ノ病者ノ御代ニ、一人ノ僧ヲ出シ給へ、然バ其ノ人ノ名ヲ、祭ノ都状ニ註シテ、申代ヘ試ミム、不然バ更ニ力不及ヌ事也ト・・・(『今昔物語』巻第十九)≫

参照:今昔物語集 巻第十九  代師入太山府君祭都状僧語 第二十四
http://www.geocities.co.jp/HeartLand/1608/koten7.html

・・・話をかいつまんで言うと、重い病に苦しむ僧侶がいて、病状が日に日に悪化しており、祈祷も効かない。そこで陰陽師・安倍晴明は、僧侶の病を治し、命を永らえさせるために「太山府君ノ祭」を執り行うこととした。しかし、晴明によると、僧の病があまりに重いため、たとえ「太山府君ノ祭」を行ったとしてもそれだけでは回復は難しく、弟子の一人を身代わりとして差し出し、都状にその名を書かねばならないという・・・というお話です。安倍晴明が活躍したのとほぼ同時期に書かれた医療書『医心方』もそうですが、この当時の日本は道教における呪術的な技法の影響が非常に強い時期でした。

参照:『医心方』と道教 ~鏡の力~。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/201411300000/

能 泰山府君。
ここに登場する「泰山(太山)府君(たいざんふくん)」という神様は、寿命を司る存在で、陰陽道の主祭神でもあります。日本では他にも、世阿弥の能に「泰山府君(たいざんぷくん)」という演目がありまして、こちらでも桜の寿命を伸ばす存在として演じられます。

参照:能 泰山府君(たいさんぷくん) [部分]
https://www.youtube.com/watch?v=ezMUUFwpFXk

東岳大帝。
もちろん、「泰山」という山は日本にはなく、中国の東端、山東半島にあります。泰山(東)・衡山(南)・華山(西)・恒山(北)・嵩山(中)の五岳のうちの東岳にあたり、泰山府君も「東岳大帝(とうがくたいてい)」の異名を持ちます。泰山(東岳)は、漢の武帝の時代に本格化する「封禅(ほうぜん)」の儀式の舞台であり、天と地、生と死の狭間に位置する聖なる山です。日本で言うと富士山(不死山)に相応します。その神格化された存在が泰山府君(東岳大帝)であるわけですが、この神様は京都御所の鬼門であり、比叡山の裏鬼門に鎮座してこれを守護する赤山禅院(赤山大明神)でも祀られています。

参照:Wikipedia 泰山
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%B0%E5%B1%B1

次は三国志の時代のちょっと後、4世紀の『抱朴子』。
葛洪(283~343)。
『天地有司過之神、隨人所犯輕重、以奪其算、算減則人貧耗疾病、屢逢憂患、算盡則人死、諸應奪算者有數百事、不可具論。又言身中有三屍、三屍之為物、雖無形而實魂靈鬼神之屬也。欲使人早死、此屍當得作鬼、自放縱游行、享人祭酹。是以每到庚申之日、輒上天白司命、道人所為過失。又月晦之夜、竈神亦上天白人罪狀。大者奪紀。紀者、三百日也。小者奪算。算者、三日也。』(『抱朴子』 微旨 巻六)
→(ある書物によると)「天地には過ちを司る神がいて、人のそばにいてその人の犯した罪の軽重によって寿命(算)を調整するという。減ずると貧しくなったり、病気になったり、悩み事が増えたりする。この「算」が尽きると人は死ぬ。」とある。
 (中略)また、人の身体には三屍という虫がいる。実体があるようだが、その形はなく、「魂」や「霊」「鬼神」に属するものである。この虫は、宿主である人が死ねば自由になり、死者への供物も頂戴できるので、その人を早死にさせたいといつも考えている。庚申の日ごとに、この虫たちは天に昇り、運命を司る「司命」に、宿主である人の過失について報告をする。また、晦日(つごもり)の夜、竈神も天に人の罪狀について報告をする。罪の大なる者からは紀を奪う。紀というのは三百日のことである。小なる者からは算を奪う。算というのは三日のことである。

司命。
これも日本では平安時代に始まり、現代にも脈々とつながる「庚申」の信仰についての記録ですが、天に昇った竈の神の報告を元に人間の寿命を奪う存在として「司命(しめい)」という名前が出てきます。生と死の運命を司る神で前掲の泰山府君ともよく似た神ですが、「司命」は屈原の『九歌』にも、『荘子』にも登場するため、歴史的には泰山府君よりも古い存在であると思われます。

参照:竈神と庚申(かのえさる)。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/diary/201409230000/

Zhuangzi
「莊子之楚、見空髑髏。昂然有形。檄以馬捶、因而問之曰、「夫子貪生失理、而爲此乎。將子有亡國之事・斧鉞之誅、而爲此乎。將子有不善之行、愧遺父母妻子之醜、而爲此乎。將子有凍餒之患、而爲此乎。將子之春秋故及此乎。」於是語卒、援髑髏、枕而臥。夜半、髑髏見夢曰、「子之談者似弁士、視子所言、皆生人之累也。死則無此矣。子欲聞死之説乎。」莊子曰、「然。」髑髏曰、「死、無君於上、無臣於下。亦無四時之事、従然以天地為春秋。雖南面王樂、不能過也。」莊子不信曰、「吾使司命復生子形、為子骨肉肌膚、反子父母・妻子・間里知識、子欲之乎。」髑髏深顰蹙曰、「吾安能棄南面王樂而復爲人間之勞乎。」(『荘子』至楽 第十八)
→荘子が楚の国に赴いたとき、空髑髏を見つけた。荘子は髑髏を打ちながら「あなたは生に執着して人の道を外したがために、こんな姿になったのか?それとも国を滅ぼして処刑されたのか?不善をなして、父母や妻子に汚名が及ばぬよう自ら命を断ったのか?衣食が足りずに飢え死にしたのか?寿命が尽きて死んだのか?」と質問を浴びせたかと思うと、おもむろに髑髏を抱き上げて、髑髏を枕に眠った。
 その夜半、荘子の夢の中にくだんの髑髏が現れてこう答えた「お前の問いは、弁士と呼ばれる連中のそれに似ている。全て生きている人間だからこその悩みで、死んだ私にはすでに関わりのないことだ。死後の世界についてお前は知りたいか?」荘子「知りたいです。」髑髏「死後の世界には、上下の身分もない。四季の移り変わりもない。ゆったりと天地と時を共にするのみだ。この喜びは人の世の天子ですら味わえない至楽なのだ。」荘子は信じられないという表情で「もしあなたの骨肉や皮膚をかき集め、司命に頼んで肉体を蘇生し、魂を呼び戻し、あなたの家族やあなたの故郷へ送り届けることができるとしたら、あなたはそれを望みますか?」と尋ねると、夢の髑髏は顔をしかめてこう言った「どうしてこの至楽の世界を捨ててまで、ふたたび人の世の苦労など味わうだろうか。」

司命。
『荘子』では、「司命」は死者を蘇生する能力を有する存在として描かれています。夢の中で野ざらしのしゃれこうべに対し、荘子は身体の復元を司命に依頼して、蘇ることができたとしたら、という仮定の話を提示します。これについてしゃれこうべは、明確に蘇生を拒否しています。今回例示した書物の中で、『荘子』という書物が最も古く、宗教的な権威も大きな書物です。にもかかわらず、この寓話は、宗教的迷妄から最も遠く、同時に現代にも通じる普遍的な命題が示唆されています。

パルパティーン議長とアナキン。
Supreme Chancellor: [looking a little frustrated] Did you ever hear the tragedy of Darth Plagueis "the wise"? (君は「賢者」ダース・プレイガスの悲劇を聞いたことがあるかね?)
Anakin Skywalker: No. (いいえ。)
Supreme Chancellor: I thought not. It's not a story the Jedi would tell you. It's a Sith legend. Darth Plagueis was a Dark Lord of the Sith who lived many years ago. He was so powerful and so wise that he could use the Force to influence the midichlorians to create life... He had such a knowledge of the dark side that he could even keep the ones he cared about from dying.(そうだろう、これはシスの伝説だ。ジェダイはこの話をしたがらないだろう。ダース・プレイガスは何年も前に実在した暗黒卿だ。彼は優れた力と智恵を備え、フォースを使ってミディクロリアンに働きかけ、生命を創造することすらできた。彼のダークサイドの知識は、目をかけた者を死から守ることすらできたという。)
Anakin Skywalker: He could do that? He could actually save people from death? (そんなことができたのですか?実際に人を死から救うことが?)
Supreme Chancellor: The dark side of the Force is a pathway to many abilities some consider to be unnatural. (私が知る限り、フォースのダークサイドには、自然の摂理を越える多くの道がある。)
Anakin Skywalker: What happened to him? (その彼に何が起きたのですか?)
Supreme Chancellor: He became so powerful... the only thing he was afraid of was losing his power, which eventually, of course, he did. Unfortunately, he taught his apprentice everything he knew, and then one night, his apprentice killed him in his sleep. It's ironic that he could save others from death, but not himself. (さらに強大な力を得たダース・プレイガスは、その力を失うこと以外に恐れるものはなくなった。彼は彼の持つ全ての知識を弟子に教えたが、不幸なことに、その弟子は、師が眠っている間に師を殺してしまった。ダース・プレイガスは他人を死から救うこともできたが、彼自身の死からは避けられなかった。皮肉なことだ。)
Anakin Skywalker: Is it possible to learn this power? (その力を学ぶことはできるのでしょうか?)
Supreme Chancellor: Not from a Jedi. (ジェダイ側では無理だろう。)

参照:Star Wars Opera Scene Dark Forces
https://www.youtube.com/watch?v=HLfGh2b_me0

今日はこの辺で。


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